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弁護士小川義龍の言いたい放題(弁護士日記・A面)
裁判官は常識知らずか? [裁判]
常識知らずではない、と断言しておく。時々、「裁判官は非常識だから」とか、「机にかじりついているから、世間知らずの頭でっかちになった」とか、「裁判官だけに任せておくと非常識な裁判になるから裁判員制度が必要」だとか、こういう論調を耳にすることがある。
しかし、裁判官は、社会人として普通の常識は持ち合わせているはずだ。
社会人として普通の常識、という言い方が漠としているなら、年功序列型の日本的大企業に勤務する真面目な会社員と同程度の常識、というくらいには絞り込めるだろう。ともかく裁判官だって裁判官である前に、普通の社会人、普通の家庭人、普通の個人なわけであって、裁判官という仕事に就く人たちが常識知らずであるとひとくくりするのは間違っている。
ところが、なにゆえ裁判官が非常識と誹られることがあるのだろうか。会社員全般が非常識と誹られることは少ないのに、なぜ裁判官が特に取りあげられるのだろう。おそらく、こんな点が誤解を生む原因ではないかと思う。即ち、
(1)弁護士のいいわけ材料
裁判に負けた際に、裁判官のせいにする弁護士がいる。まあ、私も偉そうなことはいえないが、しかし裁判に負けたのは、実は裁判官のせいではなく、弁護士の主張立証不足であることも多い。
日本の裁判は、原則として「当事者主義」だ。当事者主義というのは、原告・被告という当事者が主張立証をたたかわせ、専らその主張立証の結果に基づいて、裁判官が粛々と判断をする、こういうものだ。決して、裁判官があれこれとくちばしを挟んだりはしないというのが建前だ(実際、証人尋問で裁判官が鬱陶しく介入することはあるんだけどね。特に判検交流で検事出身の刑事裁判官とか。)。現代日本の裁判に、"遠山の金さん"はシステム上登場できないのが原則だ。
とりわけ民事裁判では、当事者が主張立証しない事柄については、裁判官は全く考えなくていいことになっている。裁判官としては、内心、原告がもうちょっとこの点について主張立証すれば勝てるのに・・・と思っても、そういうことは表には出さないし、勝手にその点を補充調査して判決することもない。だから、当事者(=弁護士)の主張立証不足によって勝てる裁判も負ける、つまり非常識な結果になることもあるのだ。(特に立証活動の重要性については前掲ブログ参照。)
この、本当は弁護士の不手際を、「いや−、あの裁判官、非常識な判決出しますねぇ」と、こういう風に依頼者に説明するわけだ。依頼者としては、当然当事者として結論に納得がいかないから、「そうですねぇ、非常識ですね、けしからん」となる。けしからんのは、依頼した弁護士かもしれないのに。
まあ実際、裁判官の判断が本当に非常識なこともあるわけだが、それは裁判官だから非常識なんじゃなくて、その裁判官の個性が、たまたま非常識だっただけだ。どんな業界だろうと、非常識な人はいる。そういう当たり前の範疇の話だ。
(2)マスコミの短絡的報道傾向
次に考えられることとして、世間の耳目を集めるような事件において、マスコミが結論部分のみを評価しがちな風潮が挙げられるだろう。
例えば、刑事裁判では量刑相場というものがある。類型的に、この程度の犯罪では、この程度の刑が科せられるのが過去の判例に照らして相当だという相場だ。この量刑相場を全く無視した裁判はありえない。なぜなら量刑が裁判官次第で場当たり的に大きく変わるようだったら、量刑はラッキーだったかどうか(=裁判官の当たり)の要素が大きくなり、それこそ平等な裁判が実現しないからだ。法的安定性は自由な社会にとって重要な要素だ(どうして重要かはいずれ話そう。)
しかしマスコミは、「この事件はひどい」とか「この被害者は可哀想だ」という理由で世間の憐憫の情をあおり、判決の量刑が低すぎる、裁判官は血も涙もない、だから裁判官は非常識なんだ、と暗にほのめかす。
そして世間は、裁判官の非常識さを勝手に刷り込まれる。
(3)クソ真面目な善意の人
そして最後に、コレ言っちゃいましたか的な要素だが、裁判官は「クソ真面目な善意の人」だということを指摘しておく。
殆どの裁判官はクソ真面目なので、キャバクラとか、たぶん行かない。行っても、キャバ嬢を口説くことは1万パーセントない。海外にサーバーがあるような微妙なサイトからアダルトビデオをダウンロードしたりしない。過去には平凡パンチ(古)しか買ったことがない。んなわけはない。
そしてたぶん、車の運転も躊躇するし、運転しても首都高速道路都心環状線は、後続車が大渋滞しようと絶対時速60キロ以上は出さないはずだ。でないと、刑事裁判官のあの説諭はありえんだろう。ある意味、結構迷惑な隣人かもしれない。
しかし私に言わせると、こういうクソ真面目さは、決して悪いことではない。
これは皮肉ではなく、私には到底できないけれども、こういう真面目さを持つ人が裁判官なのは、安心なことだ。私の場合は、何事もまあ適当でいいんじゃね?的なことをすぐ考えてしまうが、そしてそれが世間のマジョリティじゃないかと思うが、そんな風に思っていたのでは、法的安定性ある普遍的な法の適用解釈は担えないだろう。当事者の主張立証によって、粛々と裁判してもらうためには、真面目な裁判官こそ適性があるのだ。
そして裁判官は、金儲けを目指すわけでもなく、多くは出世を目指しているわけでもたぶんなく、憲法上の身分保障もあり、おそらく贅沢とか怠惰な生活を送ろうと思っているわけでもなく、まさに自分たちが司法を担っているという素朴で善意の正義感を持っている人が多いと思う。きっと合コンで女の子から、「いい人なんだけどね・・・」と言われちゃうタイプの人かもしれない。でもいいんだ。いや、これ違う。
ともかく、こういうクソ真面目さと善意の正義感が、普通のその辺の人たちにとっては、自分とは異質であり、そしてそんな人との遭遇率も低く、だから、自分とは違う=非常識と思ってしまうのではないだろうか。本当は非常識なんかじゃなく、常識的すぎるだけかもしれないのに。
・・・以上、裁判官を擁護しようというわけじゃないんだが、不真面目弁護士から善意の人たちに向けて、ちょいとエールを送ってみた。
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